RINC(凜c) RINC(凜c)について /  お知らせ /  ユーザー登録案内
記事検索
ようこそ ゲスト さん : 一般 (会員登録をおすすめします)
登録タグ

文芸   歴史   アメリカ  

小説「霊南坂の星条旗」その32 前編最終回

季節ワーカー ]

|  閲覧:766  |  コメント:0  |   一言コメント:1  |   お気に入り登録:0  |

投稿  09年08月23日 17:57:50  |  最新の更新  09年08月23日 17:57:50

 エルシィの婚約者セシル・ライオンが香港出張の際、彼女のためにコカスパニョールの仔犬を買ってきた。
サンボゥと名づけられた仔犬はひょうきんで、邸内を我が物顔で走り回り、アリス夫人のベッドを自分の寝室と思い込み、もぐりこんではアリスを驚かせ
「サンボゥ、あなたは私とエルシィのどちらを、ご主人さまと思っているの」
と言わせ、みんなを笑わせた。
そのサンボゥを連れてグルーとエルシィが皇居のお濠端に散歩に出かけたときだ。一瞬、目をはなした隙に、サンボゥが薄く氷の張った濠に落ちてしまった。
悲鳴をあげるエルシィ。石垣に取りつこうともがくサンボゥ。とても手の届く高さではない。グルーは助けを求めて交番に走った。
そのときである。通りかかったタクシーの運転手と一人の少年が駆けつけてきた。
「どうしたんだ?」
エルシィが悲鳴とともにサンボゥを指さすと、
事情を察した運転手はすぐさま車からロープを持って引き返し、体に巻きつけると、少年がそのロープを伝わり降り、お濠の水で自分のズボンが濡れるのもいとわず、懸命になっていまにも溺れそうなサンボゥを救い上げたのだった。
エルシィはガタガタ震えているサンボゥを抱きしめ、二人の機敏な行動に、
「ありがとう。ほんとうにありがとう」と、何度も礼を述べ、お金を差し出した。
冗談じゃありませんよ。そんなもの受け取れませんよ。なあ」
そうです。要りません
二人は固く拒んだ
「ではお名前を」
「いいんですよ、名前なんか。なあ」
はい」
でも・・・
「なにね、困ったときはお互いさま。なあ」
「そうです」
こうして二人は、グルーが戻ってくる前に名も告げず、立ち去っていった。
「なんという謙虚な人たちなんだろう」
ルーは感激したが、事の経緯を聞いたアリス夫人も、
「本当に勇気があって、親切で、しかも謙虚で・・・・
と深く胸を打たれ、なんとしても感謝の意を伝えたいと強く願った。
のことはやがて新聞記者の知ることとなり、日本人の美談として紙面を飾り、さらに発展して、運転手と少年を見つけた人に報奨金を出すという記事が新聞に載った。すると偽の運転手が名乗りを上げたりして、また話題を呼んだのだった。そんなこともあって、やっと本物の二人が見つかり、大使夫妻をいたく喜ばせた。
これには、さらに素晴らしい後日談があった。
宮中で皇太子誕生の祝宴が催されたとき、お祝いを述べたグルーに天皇は、
「サンボゥはどうしているか」
と尋ねられた。新聞でサンボゥ事件の顛末をご存知だったのだ。
グルーは天皇の心配りに感嘆の声をあげた。
家間の友情を築くのも、人と人との信頼に基づく。これがグルー大使の信念であり、
のようにして上は天皇から下は公邸の使用人たちまで、政府上層部から出入りの植木職人までと、幅広く日本人に会って理解を深めていったのである。
 
長い間ご愛読ありがとうございました。これにて前編を終了させていただきます。
なお現在筆者は続編を執筆中ですので、完成いたしましたらまた掲載させていただきます。
どうぞご期待ください
 

この記事へのコメント

RINC(凜c)編集部からのお知らせ
PR情報
おすすめ記事ピックアップ

アオガエル

[  しょうちゃん ]

ちょっと下ぶくれで愛嬌ある顔立ち。丸みがあるけど華奢なボディ...

疎開先での大空襲(1)

[  佐久爺 ]

 私は昭和19年(1944年)4月、生まれ育った東京の板橋か...

一言コメント(最新20件まで表示)

楽しみにしております

09年09月10日 13:20:17

最近読んだ記事

ジャーナリズムに戻ることはないね

[  セニア・ロディ ]

 「ジャーナリズムに戻ることはないね」レイオフされた記者がつ...

そそる物体発見!

[  IVYポサリ ]

 たまたま、慶應の三田キャンパスを横切っていたら、小さくて変...

草なぎ剛の事件で流行る言葉は?

[  IVYポサリ ]

「なぎ」の字が出て来ないので、ひらがなでお赦しを。 ★お酒...

小説「霊南坂の星条旗」その27

[  季節ワーカー ]

 「大使のお嬢さんエルシィとライオンさんの婚約祝いに、おかる...

遭難事故相次ぐ

[  佐久爺 ]

 きょう8月2日はごろ合わせでパンツの日だという。だとすると...

小説「霊南坂の星条旗」その14 BY KIKUYA FUNAYAMA

[  季節ワーカー ]

 新しいアメリカ大使が近々東京に赴任と聞かされ、貞吉の心はと...

セミナーのご案内【表参道が燃えた日】

[  RINC編集部 ]

 セミナーイベントのご案内 『表参道が燃えた日 ~山の手大...

東京タワーのライトアップが変わる! さて、いつからでしょう?

[  IVYポサリ ]

 写真の左側が今の照明(冬バージョン)で正式には「ランドマー...

「マクドナルド・NTT・ディズニーランド」 この組み合わせは何か。

[  セニア・ロディ ]

①2月4日の発表で、マクドナルドは1971(昭和46)年...

誕生日

[  佐久爺 ]

(お気に入りのコーヒーショップよりお祝いにもらった壁紙) ...

シニア・エージ15回セミナー「日中激変の時代を生きて」ご案内。

[  比左元 庄司 ]

  第15回「シニア・エージ」セミナー 清朝「愛新覚羅」家王...

ハミングウェイ氏の北京レポート 11月24日号

[  IVYポサリ ]

 不況の波が中国にも押し寄せてきたのか・・・今月はあまりよく...

ハミングウェイ氏の久々の「北京レポート」

[  IVYポサリ ]

 久々の、住んでみて初めて分るその実態シリーズ 先日王府...

ことし4月からの横浜に注目せよ。

[  セニア・ロディ ]

『フランス、ナント市にジュール・ヴェルヌの19世紀のSF遊園...

ハミングウエイ氏の北京レポート TV局火事

[  IVYポサリ ]

 火事の件 あのビルは、CCTV所有の高級ホテル。CCT...

小説「霊南坂の星条旗」その28 BY KIKUYA FUNAYAMA

[  季節ワーカー ]

 やがて勘平とおかるが旅姿で登場する。 「勘平さん」と、姿態...

日本のメディアが一番「人種差別主義者」

[  IVYポサリ ]

オバマ大統領誕生直前から、日本のメディア、特にTVの報道めい...

母のノート

[  由宇 ]

明治28年生まれの母のノートがある。平成12年の今日3月25...

ハミングウェイ氏の北京レポート その6

[  IVYポサリ ]

 宴の後・・・ 以下は、うちのお客の話 「私の友人は...

ハミングェイ氏の北京レポート 12月22日号

[  IVYポサリ ]

うちに来ているある日本人の女性客・・・ この女性、東京の...

後ろ歩き

[  IVYポサリ ]

 最近、後ろ歩きをやっています。人通りの少ない道で、坂を後ろ...

ハミングウェイ氏の北京レポート その4

[  IVYポサリ ]

オリンピック直前で、狂ったこの街!! 暮らしてみて、初めて分...

つぶやき由宇

[  由宇 ]

遠い昔の或る日、母から琴を贈られた。先生も紹介された。そう、...

ペンネーム変更

[  佐久爺 ]

 近く喜寿を迎えるので、気分一新、ペンネームも奈良太郎から現...

小説「霊南坂の星条旗」その30 BY KIKUYA FUNAYAMA

[  季節ワーカー ]

グルーは昭和天皇に敬愛の念を抱いていた。 末娘エルシィによれ...

ハミングウェイ氏の北京レポート 2月3日号

[  IVYポサリ ]

 最近あるDVD屋に行くのが楽しみです。 日本の映画も含...

ハミングウェイ氏の北京レポート その8

[  IVYポサリ ]

以下は聞いた話です。 あるラーメン店での出来事。 客が注...

炎の記憶を語り継ぐ「山の手大空襲の体験を語る」

[  KOUJI ]

  体験記の朗読と映像でつづる「山の手大空襲の体験を語る会」...

シニア・エージ特別セミナー「表参道が燃えた日」を終わって

[  比左元 庄司 ]

第12回「シニア・エージ」特別セミナー”表参道が燃えた日”(...

小説「霊南坂の星条旗」その29 BY KIKUYA FUNAYAMA

[  季節ワーカー ]

 殿様にご恩がありながら、色に溺れたばっかりに大事な場所にも...